2024年6月30日、幼児教育学科の荒井先生がNHK名古屋放送局のニュース番組「まるっと」(夕方18:10~)に取材協力されました。
番組では、6月28日に施行された改正風営法をテーマに、悪質ホストクラブの被害防止に向けた取り組みや、若年女性が置かれている社会的背景について取り上げられました。
全国こども福祉センターの代表として、子ども・若者が犯罪被害に遭う前に先回りするアプローチを考案し、繁華街やSNSでの交流を通して、声かけを行う活動をしている荒井先生は、専門家として風営法改正の解説と、若年女性への支援のあり方についてコメントをしています。
放送内容は、NHKプラスにて見逃し配信中です(7月6日まで)
▶ NHK「まるっと」公式ページ
若年女性のホスト依存と風営法改正 ――「孤独」と「承認」が生む社会問題
6月28日、「ホストクラブ依存」問題に対応するため、風営法が改正されました。今回の法改正は、ホストクラブ等に対して以下のような新たな規制が設けられた点が注目されます。
【風営法改正のポイント】
・ホストクラブ等の接待飲食営業に対する遵守事項・禁止行為の追加
・性風俗店等によるスカウトバック(紹介料)の禁止
・無許可営業等への罰則強化
これは、ホストクラブの利用女性が「売掛」などの名目で多額の借金を背負わされ、売春や性風俗店で働くよう強要されるといった深刻な被害を、法的に抑止しようとする大きな一歩です。
確かに、法規制は必要です。しかし本当に問われるべきなのは「なぜ、そもそも若年女性たちがホストに依存せざるを得ないのか?」という、社会の深層に横たわる構造的な問題です。
なぜ、若者は「ホスト」に惹かれるのか?
「ホストに行く若い女性は、意思が弱いだけ」「だらしないだけ」――
そうした単純な批判では、現実を見誤ります。
現場では、
・家庭や学校、地域社会のなかで“存在そのもの”が十分に認められなかった
・孤独感や承認欲求、自己肯定感の低下を抱えていた
・経済的な困窮、非正規雇用の拡大により「手っ取り早く稼げる場」に吸い寄せられていた
・「求められている」「大切にされている」と感じられる場が、夜の世界しかなかった
という現実が多く見られます。
ホストは「名前で呼んでくれる」「頼ってくれる」「話を聞いてくれる」といった承認体験を与えます。しかし、その関係性はあくまで“商業的な擬似家族”。一時的なつながりや特別感の演出によって、依存と搾取が生まれやすい土壌となっています。
依存に陥る女性たちの多くは、「家庭内で感情を抑え込まれた」「親から十分な愛情や肯定を受けられなかった」「暴力的・支配的な関係に慣れてしまっている」といった背景を抱えています。つまり、「自分を大切にされる体験」や「安心して甘えられる居場所」が、これまで圧倒的に不足してきたのです。「ホスト依存」は、社会の構造が生み出す現象この問題は、決して個人の特性だけで説明できるものではありません。
背後には、
・経済的・社会的な格差や排除
・ジェンダー構造による「尽くすこと」「献身すること」を女性に求める社会的役割期待
・「自分を大切にする力」「NOと言う力」を十分に育むことができないまま大人になる社会環境があります。
その結果、ホストクラブという「承認と報酬の場」に、孤独や生きづらさを抱えた若者が引き寄せられやすくなっています。「ホスト依存」という現象は、社会構造によって繰り返し再生産されているのです。
「やめなさい」では届かない――支援の現場から
被害の拡大を防ぐために法整備は不可欠ですが、「ホストに通うのをやめなさい」「騙されているんだよ」といった一方的な指導や否定だけでは、問題は根本的に解決しません。
必要なのは、「なぜその関係に惹かれるのか」「何を求めていたのか」を、本人自身が言葉にできるような対話と、その選択を“自分で選び直す力”を回復するためのサポートです。
全国こども福祉センターでは、若者を「要支援対象者」ではなく「仲間」として迎え、夜の街で声をかけ、名前で呼び、挨拶し、存在を認める関係を築いてきました。「誰かに必要とされる」「役割を持てる」体験を積み重ね、依存的な関係から“貢献し合う共同体”への転換を目指しています。ホストや風俗で働いている若者とも関係を切らず、失敗や「出戻り」を責めない関係を大切にしています。このように「対話と共同性」を重視する実践こそ、孤立や関係依存の連鎖を断ち切るための、現実的なアプローチだと考えます。
社会全体で、「つながり」を問い直すために
法規制だけでは、根本的な解決にはなりません。社会が本当に問うべきは、「誰もが存在を認められ、尊重され、安心してつながり直せる場を用意できているか?」ということです。
もし今、身近に「ホスト依存」に悩む人がいたら、その人の選択や背景を頭ごなしに否定するのではなく、「なぜその場を選んだのか」「何を求めていたのか」を一緒に考え、対話し直せる関係を築いていきましょう。全国こども福祉センターは、これからも「もう一つの家族」を必要とする若者たちが、自分を大切にし直せる場所であり続けたいと考えています。
「依存を断ち切る」のではなく、「自分で関係性を書き換えていく力」を取り戻すこと。それが、社会全体に求められる課題ではないでしょうか。
※本記事の内容は、NHK「まるっと」での放送および荒井先生のコメントをもとに作成しています。